北アルプス ランプの山小屋 船窪小屋

「森の童話・・・」

20100522202130長い冬の季節が過ぎ、七倉の森に柔らかな光の粒が、舞い降りてきました。

雪が姿を消して・・どれだけの時間が経ったでしょう。

厚く積もった落ち葉は雪に被われていた間に豊かな恵みの寝床に姿を変え・・・そこいらじゅうに小さな命のドラマが始まっています。 今日は・・・私がずっと楽しみに待っていた日です。朝から糸のように細い雨が静かに静かに、この森を濡らし・・・むせ返るような緑の香りがたちこめています。命の香りがします。

皆様は私が誰だかお分かりですか?

私は・・・雪解け水の沢の音が響く森で、ずーっと暮らして来たブナの木です。そう・・・皆様がこの道の先にある高い山や、そのまた先の深い谷を目指して登っていらっしゃる時に、そっと手で触れて下さる・・あの大きなブナの木が私です! あれは少し前の事でした。小さなあくびをして眠りから覚め、ウトウトとしている時に・・・この道をしゃかしゃかと音をたてながら登って行った2人の人が、「・・5月23日には、船窪小屋の仲間で落ち葉掻き・・・」と話しているのを聞いたのです。

・・・「落ち葉掻き」ですって?・・きっと、いつもこの季節になると、楽しそうにやって来て、厚く積もった落ち葉を払い、埋もれた、森の急なジグザグ登山道をきれいに見つけ出してくれる、あの人達のことにちがいない。

確かに「ふ・な・く・ぼ・ごや」って言っていたし・・・この道が「船窪小屋」に続いている事は、私だってちゃーんと、知っている。そうだ・・・5月23日には、船窪小屋の皆さんが久しぶりにこの森に・・やって来る!

この日から私は、ずっと23日を楽しみに待っていたのというのに、朝から冷たい雨が降り、私の薄灰色の幹もすっかり濡れてしまいました。船窪小屋の皆さんは、この雨の中、本当に「落ち葉掻き」にやってくるのでしょうか・・。さっきからカモシカも生まれたばかりの赤ちゃんをかばいながら、紅いツツジの花の下で森の入り口を気にかけているようです。

あっ・・・聞こえました。聞こえました。足音と笑い声と落ち葉を掻く音が。「お父さーん・・、お母さーん・・・」と呼ぶ声もします。落ち葉と一緒に急な斜面を飛び跳ねながら落ちていく石の音が響くと、すぐに、聞き覚えのある声で「落・・・っ!」と叫ぶ声がこだまします。あっ・・、暑い夏、私のひんやりとした幹に触れていった人も・・大きな熊手で落ち葉と格闘しています。「皆さん・・・お久しぶりです。私です。私の声が聞こえますか? みなさんのそばにいる・・ブナの木です。今日は本当に皆様にお会いできてうれしいです。どうか上を見上げて下さい。私の柔らかな緑色の葉っぱは、今年もこんなにきれいです。後ろを振り返ってみて下さい。上のお花畑のあたりにはまだ雪が残っているようですね。 あと1ヶ月もすれば・・・何度も皆様にここでお会いすることができます。 本当に今日はありがとうございました。シャクナゲのピンクの花たちもきっと皆様をお待ちしていることと思います・・・・。」

あ、皆さんがシャクナゲの花のの近くまで進んで行ったと思ったら・・・透き通った笛の音が私の所まで流れてきました。拍手の音もかすかに聞こえてきます。どうやら雨の中、森の小さな音楽会が開かれているようです。

「船窪小屋の落ち葉掻き」の皆様は・・・お昼前に、少し激しくなった雨の中、ずぶ濡れになりながら、見違えるようにきれいになった登山道を下って行きました。この次に、私が皆さんにお会いできるのは・・・森に静かに夏が近づいてきた頃です。その日を・・・楽しみにお待ちしています。皆さーん、どうか御機嫌よう・・・! そして・・・今年もたくさんの方がこの道を通ってくださることをお祈りしています。私は・・・これからも、ここにいます。

(おしまい)

by  KON

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