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まりさん出発

その日は、とうとうやって来ました。
12月25日、井口まりさんが南極に向けて出発する日です。

栂池から成田まで駆けつけたお父さんとお母さんは、まるで我が子の入学式に参列したように、大勢の隊員の中にまりさんの姿をいち早く見つけると無言でじっと見つめていました。
お二人の瞳が感動で,少し濡れていることに気付いた私は・・・胸が熱いものでいっぱいになりました。
船窪小屋の夜、ランプのほのかな灯りの中でフルートを演奏するまりさんに、いつも向けられていたお父さんとお母さんの静かな微笑みと眼差し が・・・今、この眩しすぎるほど明るい空港のロビーで、南極越冬隊員のユニホームに身を包み輝いているまりさんに向けられているのです。
それは・・2450メートルの空の下と何一つ変わる事の無い、あたたかさと優しさと穏やかさに彩られた眼差しです。
そして・・・まりさんを取り囲んで、その場にいた私たち全員は、何故か同じ誇らしい気持ちを共有していました。

まりさんが長年の夢を実現して、南極で過ごす日々は、おそらく素晴らしい感動が溢れていることと思います。
しかし・・・究極の厳しい自然環境の中で、やり切れない気持ちに苛まれる日もあることでしょう。
そんな時に・・・この日のお父さんとお母さんのおだやかな微笑みが、まりさんの心の中でまるでオーロラのように光を放ち彼女を勇気づけてくれる事を・・・・私は確信していました。

まりさん、いってらっしゃい!

クリスマスのこの日、遅い新幹線で長野に帰っていったお父さんたちを、深夜の栂池で待っていたのは・・・激しく降る雪でした。
栂池の「雪の中の100日」は始まったばかりです。そして・・やがて光の春が訪れ・・また、七倉尾根にさわやかな風が吹き渡り樹々が芽をふく季節が巡ってきて、わたしたちが出会った小屋に鐘が鳴り、タルチョが風に吹かれる日が訪れるのです。
南極のまりさんにも・・・お父さんとお母さんにも・・・そして小屋につながる数えきれないくらいの多くの方たちの上にもそれぞれの穏やかな季節が訪れますように・・・。

                                                  By こん