船窪小屋の前身は、農業の傍ら猟師をしていた先代の福島宗一郎(妻、寿子の父)が、現在のテント場の所に丸太の小屋を建てたのが始まりです。
猟をする時によく来た所ですので動植物は非常に豊かで、その点で今でも当時とあまり変わっていません。普段は静かなところですが、北アルプスの稜線上、しかも当時は登山ブームということもあり、夏場は大変賑わっていました。当時私は大町高校の山岳部に所属しており、アルバイトで小屋を手伝っておりました。これが船窪小屋との出会いです。
登山ブームとは無縁と思っていたこの付近も、最近徐々に登山者の数が増えてきました。私たちは山小屋経営という使命の中、迷い、戸惑いながら、これまで維持してまいりました。二人とも65歳を過ぎ、「これからの生涯をこの小屋の為に尽くそう!」そう、決めました。船窪小屋と生きて40年余り・・。この山小屋を通して多くの方々とめぐり合い、”登山者”と”山小屋”との関わり合いが、お互いの人生の支えとなってきました。
日常生活の糧を求めて登って来られるお客様に、温かい心の一夜を過していただければ、この上ない幸いと思っております。
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アドバイスができるほど登山を詳しく研究している訳ではないのですが、何度が登山教室を主宰したりガイドでお供させて頂いていると、初心者ならではの注意事項がいくつかある事に気が付きます。どこの登山道でも、最初はわりとゆるい登りで始まるものです。体力もあり、朝の爽やかな気分で登る時は、あまりゆっくりだと物足りないかも知れませんね。でも張り切ってハイペースで登り始め、7〜8合目辺りでバテテしまい、動けなくなってしまう方が結構多いのです。
初めてのコースなら特に最初はゆっくり歩き、汗が出始めたら一服し、それからペース配分を決めるのがいいでしょう。山では登山計画を立てる時、ガイドブックや登山地図のコースタイムを参考にされる方が多いと思いますが、それはあくまでもガイドブックを書いた方のタイムであり、これから登ろうとする自分自身のタイムではないと思いましょう。
何度かいろんなコースを登っていくうちに、自分のタイムとコースタイムとの差が掴めて来ると思います。そうしたらしめたもの。余裕を持った登山計画が作れるようになります。
はじめはゆっくり歩きましょう。時折景色を眺め、楽しみながらゆっくりと・・。夏山の場合、6〜7時間コースなら30分歩いたら5分休む。このペースが一番いいと思います。専門的な言葉で説明するなら、心拍数110回/分程度がいいと言われています。「少しドキドキする」「ちょっとだけハアハアする」「うっすら汗ばむ」そして、話ができる程度の状態で歩いていけるなら、そのペース配分は、大成功と言えるでしょう。
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山歩きにベストな歩き方、ご存知ですか?意外にも歩き方のコツがあるんです。足の裏全体を地面に押し付け、歩幅を小さく歩く。つまり「ベタ足歩き」がベストなのです。この歩き方は地面と接する面が大きいので足も滑らず、バランスも安定しているので、筋肉疲労も軽減することが出来るといわれています。
しかし、斜面をこの歩き方で登るということは、少し慣れないとなかなかできません。滑りやすい足場では、どのように足を置けば滑らないのかを知ることが大切です。「これくらいの濡れ方なら滑らず歩ける」と言う自信を持つには、歩幅を小さくし、普段の生活でも、歩きにくい泥道や坂道を歩いて
少しずつ自信をつけていきましょう。坂道の上り下りが滑らずできるようになったら本番の登山でもその感覚を思い出し、安心して歩くことができるはずです。
私たちも現在は65歳を過ぎてしまいましたので、山小屋へ行くために毎日のトレーニングを心がけるようになりました。若いころは日常生活の延長のように思っていた山小屋での生活も、体力の衰えと共に普段からの体力作りが必要になってきたのです。
お客様と接していると、小屋番はどんな高低差のある尾根や稜線でも、スーパーマンのように歩き回れる人間のように思われがちですが、そういうわけにはいきません。自分が高年齢化してきた今、毎日の体力作りをいかにするか、小屋番自身の問題としても身を引き締めて望んでいこうと思っています。
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「今日はどちらから来られましたか?」
私たちが到着されたお客様にお伺いする最初の言葉です。「針ノ木から」「七倉から」「大沢から」「烏帽子から」「新越から」と、私共の山小屋では幾通りものお答えをいただき、話が弾みます。爽快で涼しそうなお顔で小屋の戸を開ける方。「バテたー」と言ってベンチに座り込む方。午前中に到着する方や夕方遅くに到着する方と千差万別ですが、遅くとも夕方4時には到着されることをお勧めいたします。体調を整えゆっくり歩いてこられるのはもちろんですが荷物の重さも山行のポイントのひとつと言えるでしょう。小屋利用なら大縦走でも10kgくらいに抑えたいものです。
以前、親不知海岸から上高地まで縦走されたお客様が泊まられたとき、あまりの荷物の少なさにびっくりしたことがあります。彼の荷物をご紹介しますと雨具上下、ロープ、セーター一枚、Tシャツ等の衣類を数枚、非常食のカロリーメート、飴一袋、水1リットル、携帯電話、ヘッドランプ、小型カメラ、それ以外は持たず、必要なものは山小屋で調達すると言っていました。小屋で調達すると言うところに、軽く歩けるコツがあると言えるでしょう。
反対に、60歳の男性で28kgという荷物を背負って縦走してきた方がありました。カメラが重いのかな?と思ったのですが、装備の持ちすぎと思われるものが多々あったと思います。
食料もドライ化され、衣類も軽くなったこのご時世です。荷物もコンパクトにまとめ、大縦走も爽快に歩いてほしいでね。
松澤宗洋
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「え?船窪小屋?その小屋ってどこにあるの?」・・・。
あの有名なダンプさん(カモシカスポーツの高橋さん)がそうおっしゃったと聞いて、私は驚きを隠せませんでした。「ココはそれほどまでにマイナーだったのか...」
針ノ木〜蓮華岳〜七倉岳〜船窪岳〜不動岳〜南沢岳〜烏帽子岳。この七つの山は、北アルプスの真ん中にありながら、一番登山者の少ないコースです。まあ、北は白馬連峰、南は槍穂高連峰という日本一にぎやかな2大連峰に挟まれ、いたしかたないとは思ったものの、やはりショックでした。昨今の百名山ブームとはおおよそ無縁なこのルート、しかし他には無いこのルートの魅力を
少しでも多くの人に知ってもらいたい。また初心者の方に少しでも役に立つ情報をお伝えできればと思います。
松澤宗洋
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