9月4日?7日 お手伝い日記
暦の上ではとっくに秋だというのに連日「暑い」という言葉がご挨拶の毎日です。8月末から小屋番のひかるさんがお休みをとり山から山への旅を始めています。そこで・・・お母さんから「お手伝い」の打診を受けた私は、まりさんと小屋に上がることに・・・。空は何処までも青く、透明感が感じられるのですが、樹林帯の中の暑さといったら・・・。稜線上でようやくかすかな風の気配のお出迎えを受け一路小屋へ。
到着するお客様は皆、暑さに体力をかなり消耗していらっしゃるようでしたが、
夕食の後、小屋の上を覆い尽くすように広がった満天の星空に、山行の疲れも忘れて、極上の夜、心地よい眠りに包まれます。。
秋の天の川が夜空を大きく横切る下で、小さな小屋は灯りを消して、闇に溶けていきました。
翌日5日は、まりさんが下山。お父さんが7日の荷揚げの準備の為にこのシーズン始めての下山。おさんぽ隊長さんも水場に3度往復した後下山。とうとう小屋は、お母さんとペンパさんと私の3人に。ここからがいよいよ騒動記のはじまりはじまり。3人で40人近いお客様の食事の用意。受付やお部屋割り。さらに加えて、暑さの為に、途切れる事無く続く水を希望するお客様。
(しかし・・・この夜も、無事、食事もお茶会も終わり更けて行く・・・・はずだったのですが、お酒でご機嫌の一人のお客様が足を取られて転倒、腰を打撲という「事件」が発生しました。この夜のお客さまの中に偶然、オフの富山県警山岳警備隊の方がいらした為、事件を「鎮静化」することができました。今回は大事には至りませんでしたが・・・山行のあとのアルコールは疲れた体と心に至福の時を与えてくれると同時に・・・疲れた体と心の自由を奪うこともあるのです。)
大勢のお客様たちがそれぞれの方向に出発されたあと・・・静かな時間が小屋に戻り、新しい週がはじまりました。空気はますます透明感を帯び、小屋の周りでは光の粒子が輝いています、小さな秋が確実に忍び寄って来ています。黒豆の木は実りの季節を迎え,黒い真珠が露に濡れた朝です。
7日午前7時。いよいよ今シーズン最後の荷揚げが始まりました。
青い空を背景に、ヘリコプターが、タルチョがなびく小さな小屋をめがけてやってきて、荷物を落とすと、またあっという間に谷の中に吸い込まれて,姿を消してしまいます。
お客様をおもてなしするための食材やプロパンガスなどもこれで整い、お母さんは腕を振るう事ができるので、喜びが紅潮した頬に見て取れます。山の上の小さな厨房で、いったい、今年もどれだけのお客様達に幸せな山の夕餉を供して来た事でしょうか。まだ陽の上がらない真っ暗な中、次の目的地へと出発するお客様に、静かな朝餉で心と体にエールを送ってきたことでしょうか?
荷揚げで上がってきた食材の整理も終わり・・私は、小屋を後にしました。
天狗の庭まですたすたと下って来た時、たった4日前と季節がすっかり入れ替わってしまっている事に気付きました。
あと・・1ヶ月。小屋の物語はおしまいのページが近づいてきています。おしまいを惜しむように1ページ1ページが、ゆっくりとめくられていきます。
ブナの林の中、ジグザグ道を。たくさんのお客様に、山の記憶に残るかけがえのない時間を作っていただけることを願いながら歩いていると、カモシカの親子のまっすぐな視線が私を捉えました。
この日、ひかるさんが山旅から戻ってきました。そしてあと何日かするとお父さんも小屋に戻ってくるでしょう。
星達は輝きを増し、2度目の満月の夜が巡ってくる前に・・・扉は閉ざされるのです。
By こん
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