北アルプス ランプの山小屋 船窪小屋

横山礼子さんを偲んで・・・。

7月2日。1ヶ月前とは姿を変え、ブナの森はむせ返るような緑です。
始まったばかりの山の季節に、少しばかり心細い足取りで進んでいくと、イチヨウラン、オオヤマレンゲ、サラサドウダン等の花が白く秘かに・・・穏やかに・・・微笑んでいます。去年の小屋開けの時期に、花の数を数えながら心に刻んだオオヤマレンゲとの再会は約束通り、この静かな道でかなえる事ができました。 その後、私たちは、鼻付き八丁のハシゴの側で思いもかけない姿で倒れて道を塞いでいる巨木に、立ち止まってしまいました。森に香しい針葉樹の香りを漂わせながら、想像もできないくらい長い命を、今この季節に終えたばかりなのです。長い間、雪にも雨にも夜の闇にも耐えて来た、とてつもなく大きな木が、沢を駆け上がって来た風に闘いを挑まれたのかもしれません。

明るい稜線では・・ヒメイチゲ、チングルマ、ショウジョウバカマ、イワカガミ、コマクサ、シラネアオイなどの花の饗宴が繰り広げられています。眠りについていた船窪小屋も・・目覚め、小屋の中からは元気な声が聞こえ、懐かしい顔や暖かな足音がようやくたどり着いた私たちを、今年も迎えてくれるのです。
ランプの灯りの下で過ごす久々の静かな夜は、岡山からいらした横山礼子さんのお仲間をお迎えして、特別の時となりました。

昨年の秋・・・船窪小屋の大切な仲間、横山礼子さんが突然、旅立たれ、私たちは言葉を失ってしまいました。そして・・・今、礼子さんの明るい笑顔や、山や自然を愛した心の記憶をたぐり寄せながら、囲炉裏を囲んでひとつに繋がろうとしていました。

翌日、礼子さんへのそれぞれの思いを抱きながら、私たちは、七倉岳山頂近くの、風が吹き渡る場所まで歩きました。取り囲む全ての山々に見守られ・・私は、オオヤマレンゲやシラネアオイのいのちが確実に繰り返され、季節の中に穏やかに何度も何度も蘇り、出会えるというのに・・・この季節に・・・礼子さんに出会えなかった寂しさと割り切れなさに愕然としました。
同じ気持ちを心に包み込みながら・・・大きな自然の中で出会えた偶然と必然に感謝せずにはいられませんでした。

去年、小屋を閉め、下って行く私たちを見守っていた大きな針葉樹が風倒木という名前に姿を変え・・・登山道に木陰を作ってくれる事も無く、森の新しいページを開こうとしています。
そして・・・ お花畑の雪渓の雪を抱えて少女みたいに笑っていた礼子さんは、今年の小屋開けには「欠席」でしたが・・・私たちの心の中に新しい記憶が加わったようです。オオヤマレンゲの白い花の下を通りながら苦しく辛い道を上がる時・・、シラネアオイの薄紫の花びらが揺れる時・・・横山礼子さんというひとりの方と心を通わせた日々を思い描くことでしょう。

こんなふうに、七倉の自然も、七倉の尾根で出会ったかけがえのない仲間達も、船窪小屋の物語のページを増やして行くのかもしれません。

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